愛媛大学

科学イノベーション挑戦講座

科学研究をしてみよう 科学研究の方法と展開

科学研究に興味のある人のために科学者が研究を行う際の考え方を整理してみました。

科学研究で一番大事なこと

 最初に一番大事な話をしておきます。
 「最初から何でもできる人はいない」ということです。どれほど優れた科学者も最初からそうだったわけではありません。みな,努力によって自らの才能を伸ばしてきた結果として,優れた科学者と呼ばれるようになったのです。そして才能を伸ばすためには,長い時間がかかります。あきらめず,一歩一歩進んでいくことが必要です。できないことも,わからないこともたくさんあるでしょう。それでいいのです。
 あせらず,あきらめず,努力を続けることだけが,あなたを優れた科学者にしてくれることを忘れないでください。

科学研究の方法

科学研究の方法とは以下のようになっています。
①観察 → ②問い → ③実験計画 → ④実験 → ⑤結果の整理 → ⑥評価 → ②問い → 以下繰り返し
これらの内容を詳しく見てみましょう。

①観察

 まず,対象を観察することで「なぜそうなるのか」という問いが立ちます。この問いを『解決』するために,実験を計画します。観察は,すべての科学研究の基本になるものですので,とても重要です。多くの人にとって何でもない,当たり前だと思うことの中に,実は大きな謎が隠されていることはよくあります。「そんなの当たり前だよ」という言葉は,科学者にとってはあまり良い言葉とは言えません。高知育ちの優秀な科学者,寺田寅彦先生が「科学者とあたま」の中で述べている内容を抜粋します。寺田先生の著作の全文は青空文庫というサイトで,無料で読むことができます。
『「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人(せじん)の口にする一つの命題(めいだい)である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし一方でまた「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という命題も,ある意味ではやはりほんとうである。
 論理(ろんり)の連鎖(れんさ)のただ一つの輪をも取り失わないように,また混乱(こんらん)の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには,正確でかつ緻密(ちみつ)な頭脳を要する。すなわちこの意味ではたしかに科学者は「あたま」がよくなくてはならないのである。
 しかしまた,普通にいわゆる常識的にわかりきったと思われることで,そうして,普通の意味でいわゆるあたまの悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事(じんじょうさはんじ)の中に,何かしら不可解(ふかかい)な疑点(ぎてん)を認めそうしてその闡明(せんめい)に苦吟(くぎん)するということが,単なる科学教育者にはとにかく,科学的研究に従事する者にはさらにいっそう重要必須(ひっす)なことである。この点で科学者は,普通の頭の悪い人よりも,もっともっと物わかりの悪いのみ込みの悪い田舎者(いなかもの)であり朴念仁(ぼくねんじん)でなければならない。
 科学の歴史はある意味では錯覚(さっかく)と失策(しっさく)の歴史である。偉大なる迂愚者(うぐうしゃ)の頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。頭がよくて,そうして,自分を頭がいいと思い利口だと思う人は先生にはなれても科学者にはなれない。人間の頭の力の限界(げんかい)を自覚して大自然の前に愚(おろ)かな赤裸(せきら)の自分を投げ出し,そうしてただ大自然の直接の教えにのみ傾聴(けいちょう)する覚悟(かくご)があって,初めて科学者にはなれるのである。しかしそれだけでは科学者にはなれない事ももちろんである。やはり観察と分析と推理(すいり)の正確周到(しゅうとう)を必要とするのは言うまでもないことである。
 つまり,頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。』
 教科書では,原因と結果という風にすべての答えがわかっているかのように教わりますが,それは「そのように考えるとわかりやすい」ということであって,「ほんとうにそうである」とは限らないのです。「当たり前」「そうなっている」と思い込まずに,何事にも「なぜそうなるのか」という疑問を持つことが大事なのです。

②問い

 研究を始めるためには,この「なぜそうなるのか」という「問い」が必要です。明らかにしたいことがあるからこそ,研究を始めるからです。しかし,研究とはつねに上手く行くわけではありません。何度やっても失敗することの方が多いのです。そこで,また「なぜ上手く行かないのか(なぜそうなるのか)」という疑問が生まれます。「なぜそうなるのか」を考えることで,実験が上手く行くこともあるでしょう。しかし,実際には上手く行かないことも多いのです。そこで,また「なぜそうなるのか」と考えます。すると,「思った通り」に上手く行かない「失敗」こそが,大きな「発見」であることに気づくのです。この良い例が紫の染料モーブの合成でしょう。
 かつて紫色の染料には,巻き貝の分泌物が使われていました。貝から取るのですから,ごく少量しか取れず大変貴重です。そこで,紫というのは,欧州では高貴な人間が着る衣装に使われる染料となりました。「紫に生まれて」ということわざは,「高貴な生まれ」を意味するようになったのです。この紫の染料を,人工的に合成した人物がいます。ロンドン生まれのウィリアム・パーキンです。発見当時,かれは18歳でした。パーキンは,ドイツ人化学者フォン・ホフマンの弟子となり,自宅の屋根裏部屋でマラリアの特効薬であるキニーネという化合物の合成を行っていました。しかし,かれはまだ18歳,専門の教育も受けておらず,実験は中々上手く行きませんでした。ある日,いつものように実験は失敗し真っ黒な粉ができました。そこで,かれは粉を洗い流そうとアルコールを入れたのです。すると,真っ黒な粉が紫色になったのです。失敗と決めつけていれば,そのまま捨ててしまったでしょう。しかし,パーキン少年は,紫色の可能性に気づきました。「これを使って布を染めることができれば,安価に大量に紫の染料を得られるかもしれない」。かれはキニーネの合成をやめ,紫の染料モーヴの研究を始めました。そして,1858年,かれの合成したモーヴで染めた服を着たヴィクトリア女王が,娘の結婚式に出席して,紫はこの時代を象徴する色となったのです(科学は歴史をどう変えたのかより)。
 科学研究では,時として思いもよらない出来事が起こります。それを「失敗」として捨ててしまえば,それまでです。しかし,思った通りに行かないときこそ,大きな発見が隠れているかもしれません。科学史上の大きな発見は実は多くの科学者が既に観察していた現象の中から見つかることがあります。なぜ同じ現象を観察しているのに,ある科学者は発見できて,ある科学者は発見できないのでしょうか。それが「なぜそうなるのか」という疑問があるかどうかなのです。失敗として諦めてしまえば,発見は生まれません。「なぜそうなるのか」という疑問をもつことこそが科学研究にとってもっとも重要なことなのがわかるでしょうか。

③実験計画

 実験計画をしっかり立てておかないと,実験が始まってから「あれがない!」「このデータを取り忘れた!やり直しだ!」ということになります。ですから実験計画はしっかりやりましょう。
 実験は,問いを解決するために行われるのですから,実験の計画は問いにしたがって立てなければなりません。それは次の順番で決めます。

  1. 何を調べるべきかを決めます。『目的』
  2. どのような方法で調べるべきかを決めます。『方法』
  3. 何が必要なのかを決めます。『準備』

 具体的に考えてみましょう。あなたは,「パン酵母の発酵の速度を制御したい」と考えました。反応速度を制御するためには,どのようにして発酵が起こっているのか,発酵に必要な条件は何かを知らなければなりません。

  1. 『目的』
     そこで,『目的』は「パン酵母の発酵の速度を決める条件を知る」ことになります。
  2. 『方法』
     次に,『方法』です。どうすれば,パン酵母の発酵の速度を決める条件を知ることができるでしょうか。パン酵母が発酵する速度をはかるための方法が必要になります。大まかに速度をはかるために2つの方法が考えられます。1つはパン生地がふくらむという現象から,発酵によって『気体』が発生していると予想されます。そこで,この『気体』の発生速度を調べるというものです。これは比較的簡単に調べられそうです。もう1つは発酵という化学反応によって砂糖が分解される量を調べるというものです。水溶液中の砂糖の量というのは,つまり糖度ですから,糖度を調べる装置があれば可能です。糖度というのは,スーパーなどでPOPに「糖度15のあま〜いみかんです」と書いてある,あの糖度です。
     他にも方法はあるでしょう。いろいろな方法を考えてみましょう。その中から実現できそうな方法を選びます。
  3. 『準備』
     方法が決まったら,実験を行うための準備を始めます。そもそもパン酵母を発酵させるときには,どのような条件があるのかを調べなければなりません。そこで,パン生地をつくるときに必要なものを調べてみました。
     パン生地をつくるときに必要なもの:強力粉(きょうりきこ),水,バター,砂糖,塩,ドライイースト
     条件は6つありますね。では,これを調べれば良いのでしょうか。6つの条件すべてを調べるには時間も労力もお金もかかります。研究は効率的に行いたいので,最初から必要のない条件は省きたいですね。すると,問題は,このなかで発酵に必要なものはいくつあるのかということになります。
     これらを調べ,整理して,準備を開始します。『方法』で考えた,装置は用意できるのか,何を,どのように測定するのか,結果はどのように整理して,評価するのかなどを準備していきます。

④実験

 計画に従って実験を開始します。実験において,もっとも大事なことは観察です。
 色はどのように変わったか,何か変化はみられたか,温度は変わったか,匂いはどうか,溶けずに沈殿しているのか,それとも溶けたのか,観察すべきことはたくさんあります。これらをすべて実験ノートに書きましょう。そう,実験ノートはとても大事です。科学者は,実験ノートを必ずつけます。1回1回の実験を覚えていることはむずかしくありません。しかし,同じ実験を20回,30回繰り返したらどうでしょうか。そんなときに実験ノートに,すべて書き込んであると,「あれ?同じようにやっているはずなのに,ここだけデータがちがうぞ?…この日だけ気温が高い。もしかして…」とか,「なんで今日は反応がちがうんだろう?…ん?薬品のメーカーがちがうぞ。もしかして…」と言った発見があるのです。ですから,観察と実験ノートへの記載は実験において,もっとも重要な部分です。
 学校でも実験の時は,先生がワークシートを作ってくれて,書き込むようになっていますね。あれは,この練習なのです。学校では,わかりやすいように先生がワークシートを作ってくれますが,科学研究では,そのようなものがありませんし,何が大事なのかもわかりません。ですから,あまさず観察して記録することが,とても重要なのです。

⑤結果の整理

 実験をすると結果が得られます。この結果をただ集めただけでは科学研究とは言えません。科学研究では結果を整理することも重要です。
 たとえば,先ほどのパン酵母の発酵の速度の測定で考えてみましょう。得られたデータをまとめてみましょう。

実験温度:42℃

表1.糖度変化
  開始前 1時間後
砂糖 15 14.8

表2.気体の発生量
時間(分) 気体の量(mL)
0 0
4 19
8 42
12 67
16 92
20 116

図1.気体の発生量

 実験温度と濃度とは,反応速度を考えるときに重要です。42℃で糖度15の砂糖を発酵させたときの糖度の変化が表1です。この糖度の変化量は,砂糖の分解された量を示していますから,砂糖の分解された量から気体の発生量を計算によって求めることが可能になります。
 表2は,発生した気体の量です。これだけでは,よくわかりませんね。そこで,図1のようにグラフを書いてみましょう。点を結んだ直線を引いて,線の傾きを出すことで,気体の発生速度を求めることができます。エクセルなどを使えば,コンピューターが計算してくれます。図1のy = 5.9598x – 3.7852がそれです。
 表1から得られた気体の発生量と表2から得られる気体の発生速度から計算した1時間後の気体の発生量とを比較すると,いろいろなことがわかってきそうですね。

 今回の実験では,パン酵母の発酵の速度を決めている条件を調べたいのですから,この実験ひとつでは何もわかりません。そこで,この実験を基準として,条件を変えた実験を行って,比較することで,パン酵母の発酵の速度を決めている条件を知ることができるのです。

 ここでひとつ重要な点があります。実験の条件を変えるときは「必ずひとつだけ」変えるということです。2つ条件を変えて,元とちがった結果を得たとして,2つのうち,どちらが結果に影響したのかわかりますか? わかりませんね。ですから,条件を変えるときは「ひとつずつ」変えることが重要です。さて,あなたは,この実験で次にどの条件を変えますか?

⑥評価

 実験で得られた結果を評価しましょう。今回の実験では,パン酵母の発酵の速度を決めている条件を調べたかったので,結果の整理で得られたデータを元にして考えましょう。
 たとえば,温度を変えたときの発生量は増えたでしょうか減ったでしょうか。濃度を変えたときはどうでしょうか。このようにいくつかの条件をひとつずつ変えて,得られたデータを比較していくことで,発酵反応の制御に必要な条件を決めることができます。
 データを評価した結果,あなたは「こうすれば反応速度を制御できそうだ」と考えました。これで終わり? いえいえ。折角,条件を決めたのですから,こうすれば制御できる条件で,自分の思う通りに反応速度が変わるかどうか試してみましょう。当然,いままでやった条件とはちがう条件ですよ。それで,「思った通り」の結果が出れば,あなたの推論が正しかったということが証明されるのです。

 これで科学研究は一区切りつきます。終わりかって? そんなことはありません。ここまでの研究の中で,あなたはきっと別の疑問が生まれているはずです。それはたとえば「パン酵母以外の反応速度はどうだろう」や「反応速度に関係ないパン生地の材料は何をしているのか」といったものかもしれませんし,もっとちがうものかもしれません。そこで,次はそれを調べていくことになるのです。そうです。科学研究には終わりは訪れません。あなたが疑問を持ち続ける限り,研究は続きます。実は実験も必ずしも必要ではないかもしれません。実験するお金や設備がなかったら,あたまの中で実験をするのです。これを思考実験とよびます。私たちが謎をみつけ続ける限り科学研究を続けることができるのです。そして,その謎はありとあらゆるところにあります。どうでしょうか。科学研究のおもしろさが理解できたでしょうか。

科学研究の展開

 この世界はまだまだ謎だらけです。科学者にとっては,自然はわからないことばかりです。だからこそ,おもしろいのです。「なぜそうなるのか」知りたいという願いが科学者にとっての原動力です。私たちの生活のあらゆる場所に謎はあります。まだ見つかっていない謎もたくさんあるでしょう。謎を見つけるのには,知識が必要なこともあります。だからこそ,勉強もしなければなりません。そして,いまだに完全ではない世界を知ることは,科学者にならない人にとっても大事なことです。
 ファインマンは「科学は不確かだ!」の中でこう述べています。
『自らの無知や疑いを認めることこそ,科学が進歩していくためにこの上なく大切なことなのです。なぜなら疑いがあればこそ,僕らは新しいアイデアを求めて,新しい方向に目を向けることを考えるからです。真実がわかってしまえば,確認する価値のあるものはもはや何もなくなってしまうでしょう。
 これは科学だけでなく,広く一般にも非常に価値のあることだと僕は信じます。いままで解かれたことのない問題を解くには,未知の要素を入れる余地を残しておかなくてはいけません。そして自分のやっていることが必ずしも正しいとはかぎらない,という可能性も認める必要があります。そうでなくて,はじめから何もかも決めてかかるのだったら,問題を解決することは,決してできないのではないでしょうか』

引用文献

  • 科学は不確かだ! ファインマン著 大貫昌子訳 岩波新書
  • 科学の大発見は何故生まれたか ヨセフ・アガシ著 立花希一訳 ブルーバックス
  • 科学は歴史をどう変えたのか マイケル・モーズリー&ジョン・リンチ著,久芳清彦訳 東京書籍
  • 科学者とあたま 寺田寅彦 青空文庫